「日本のマスコミは、少し感覚がおかしいのではないか?」
◆長野県松本市で開催中のサイトウ・キネン・フェスティバル
(ベルリオ−ズ「ファウストの劫罰」)出演のため来日中のオ
ペラ歌手のスーザン・グラハムさんに首をかしげられ、「返す
言葉がなかった」と友人の記者◆小澤征爾氏のウイーン国
立歌劇場音楽監督受諾への日本国内のクールな対応が、楽
界における同歌劇場の地位を知る彼には理解に苦しむらしい。
二十四歳の小澤氏がプザンソン国際指揮者コンクールで一位
の栄冠に輝いた後も、日本での反応は必ずしも好意的ではな
かった◆N響など公演当日、前代未聞のボイコット騒ぎを起こし、
以後、四半世紀以上、小澤氏が海外活動をする契機に。日本
でも師の故斎藤秀雄氏と一門は傷心の同氏を支えた。が、や
はりカラヤン、バーンスタインといった巨匠たちとボストン・フィル
の仲間の功績が大きい◆彼にオペラを奨めたのもカラヤンだ。
「オペラとシンフォニーは車の両輪。片方だけやっていると両方知ら
ないで死んじゃうよ」。一九六九年のザルツブルク音楽祭で小澤氏
を励ましたカラヤンも当時、自らがそのポストを極めた歌劇界の頂
点に、彼が立つと想像できただろうか。今回の受託について小澤氏
は「想像もしていなかった。幸運を活かせるべく努力したい」と謙虚
に語る◆二十一世紀を前に、日本的な、ひがみ、ねたみの猛省が
迫られる事例といえる。